センチュリー・プラントにようこそ

言葉と物語、創作小説

憎しみのない愛はない

ローレンツは「憎しみのない愛はない。愛のない憎しみはない」ってうまい言い方をするわけです。性による男女の結合なんていうのは、ほんとうにそうだと思います。そういうものすごく矛盾した両義性を持っているんだと思いますね。
村上龍坂本龍一『EV.Cafe』河合雅雄の発言)

 ローレンツは動物行動学者であり、河合雅雄は霊長類学者である。河合雅雄は臨床心理学者の河合隼雄の兄でもある。男女の結合、とあるが、この文章が1989年に発刊された講談社文庫から引用しているので、表現が古い。今なら「男女」とは書かれないかもしれない。

 純愛、という言葉があるが、それは幻想なのかもしれない。愛していれば憎しみ、嫉妬することもあるだろう。愛するにしても憎しむにしても、相手のことをどうでもいいとおもっていればそんな感情は存在し得ない。相手が自分にとって何らかの意味のある人間だから、愛し、もしくは憎しむのだ。

 ここでは「性による男女の結合」と書かれているので、親子間の愛情などはこの文章には当てはまらないのかもしれない。そこには、純愛が存在するのかもしれないが、それもまた幻想なのかもしれないのである。いずれにせよ、人間は純粋に愛することなどできない存在なのだろう。