センチュリー・プラントにようこそ

言葉と物語、創作小説

たとえもはやこの地上に何も残っていなくても

たとえもはやこの地上に何も残っていなくても、人間は――瞬間でもあれ――愛する人間の像に心の底深く身を捧げることによって浄福になり得るのだということが私に判ったのである。

(ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」みすず書房

 解説には、この本の原題は「Ein Psycholog erlebt das K.Z」であり、「強制収容所における一心理学者の体験」と訳すべきものであると述べられている。ここにおける強制収容所とはアウシュヴィッツのことである。ユダヤ人であった心理学者フランクルは妻とともにここに入れられた。

 上記の分はアウシュヴィッツの内部でフランクルが至ったものであるが、ここでいう「愛する人間」は妻のことだ。フランクルと妻は別々の区画に分けられていた。だが妻はこの時点で既に死んでいる。しかしフランクルの妻が生存しているかどうかは関係ないというようなことを書いている。肉体的存在の有無は愛には関係ないらしい。

 こういうことを書きたくて、続けているのかもしれないと思う。書けるかどうかは別の話だが、書くことはやめないだろう。